スポーツの秋 ― 卓球と設計、意外と似ている二つの世界

9月に入りました。日中はまだ暑さを感じる日もありますが、朝晩には少しずつ秋の気配を感じるようになってきました。

秋といえば「食欲の秋」「読書の秋」「芸術の秋」、そして「スポーツの秋」。今回はいつもの建築や設計の話から少し趣向を変えて、私が続けている卓球について書いてみたいと思います。

一見すると、卓球と建築設計はまったく関係のないもののように思えます。ところが長く卓球を続けていると、ときどき「卓球と設計って、意外と似ているかもしれない」と思うことがあります。今回はそんなお話です。

「100m走をしながらチェスをする」― 次を考える

日本卓球界の礎を築いた元世界王者・荻村伊智朗氏は、卓球について「100m走をしながらチェスをするようなスポーツ」という言葉を残しております。卓球をしている人間からすると、なかなか的を射た表現だと思います。

卓球は、ただ飛んできたボールを打ち返しているわけではありません。サービスを出すときも「ここへ短いサービスを出したら、相手はどこへ返してくるだろう」「バック側へ返ってきたら、次はフォア側を狙ってみよう」と、次の一球、その次の一球まで考えます。相手もこちらの作戦を読んでいますから、こちらが変えれば、相手も変える。「今」だけではなく「その次に何が起こるのか」を想像する感覚です。

これは設計をしているときにもよくあります。建物を設計するときも、単に部屋を並べているわけではありません。「ここから人が入ってきたら、どちらへ歩くだろう」「この窓から、どんな景色が見えるだろう」「10年、20年経ったとき、この建物はどう使われているだろう」。図面に描いているのは現在の線ですが、頭の中ではまだ存在していない未来の使われ方を考えています。卓球と設計には、意外な共通点があるように思います。

思い通りにならないから、面白い

もう一つ似ているのが「最初に考えた通りには、なかなかいかない」ということです。試合前には作戦を考えますが、相手はこちらの思い通りには動いてくれません。そんなとき「予定と違うからダメだ」ではなく「では、次はどうしよう?」と考える必要があります。

設計もよく似ています。建築には敷地、予算、法規、構造、設備、施工方法など、たくさんの条件があります。お客様と話をしているうちに「やっぱりこちらの方が使いやすいのではないか」という新しい考えが出てくることもあり、最初に描いた案がそのまま最後まで進むとは限りません。条件が変われば考え直す、問題が見つかれば別の方法を探す。そして、考え直した案の方が最初の案より良いものになることもあります。思い通りにならないことを楽しみながら、その場で考えて修正する。これも共通する面白さなのかもしれません。

「相手を見る」ことから始まる

そして、私が一番似ていると思うのが、相手を見ることの大切さです。卓球では、自分が打ちたいボールだけを打っていても、なかなか試合には勝てません。相手の得意なところ、苦手なところ、どんなサービスを嫌がっているのか。それを見ながら、自分のプレーを変えていきます。

設計も同じです。設計者が「自分はこんな建物をつくりたい」と考えるだけでは、良い建物にはならないと思います。そこで暮らす人、働く人が何を大切にしているのか、どんなことに困っているのか。まずは話を聞いて、相手を知るところから設計は始まります。建物が建つ場所についても同じで、太陽の向き、風、周囲の建物、道路、景色、そして新潟であれば雪。敷地もまた、いろいろなことを私たちに教えてくれます。

卓球も設計も、結局は自分だけで完結するものではないのかもしれません。相手がいるから考える。条件があるから工夫する。そして、思い通りにならないからこそ面白い。

これから秋が深まり、身体を動かすには気持ちの良い季節になってきます。皆さんもこの秋、何か身体を動かしてみてはいかがでしょうか。私も仕事ではより良い建物を、卓球ではより良い一球を目指して。設計と卓球、どちらもまだまだ腕を磨いていきたいと思います。