近年、住宅業界では資材価格の高騰に加え、建材や設備そのものが手に入りにくい状況が続いています。「発注すれば届く」「計画通りに進む」という、これまで当たり前だった前提が大きく揺らいでいます。この記事では、その背景と現場の変化、そして私たちが設計として取り組んでいることをお伝えします。
なぜ資材は高騰し、届きにくくなっているのか

現在の状況は、複数の要因が重なって起きています。最大の背景にあるのは中東情勢の悪化です。米国とイスラエルによるイラン攻撃が建材や住設機器の供給網に混乱をもたらし、「建材ショック」の様相を呈しています。イランが原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖して以降、原油需給が逼迫し、日本国内では石油化学製品の値上げが相次いでいます。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、日本の原油輸入の約9割が影響を受け、石油化学製品を原料とする断熱材や塗料の生産が止まり始めています。 住宅に使われるプラスチック素材のほぼすべての原料となる「ナフサ」の調達が困難になったことが、住宅業界全体を直撃しているのです。
石油からナフサ、そして塗料原料や断熱材原料へと続くサプライチェーンの上流で供給が不安定になると、下流の建材にまで遅れて大きな影響が出ます。 さらに紅海を避けてアフリカ南端の喜望峰を経由する航路変更により、輸送日数が通常より14〜25日延伸し 、物流コストも急騰しています。こうした状況は一時的なものではなく、「いずれ落ち着く」と待つのではなく、この現実を前提とした家づくりの考え方にシフトしていくことが求められています。
現場で実際に起きていること

断熱材の大幅値上げと生産停止
断熱材については大手メーカーより原材料コスト急騰を理由に2026年5月から約40%という大幅な値上げが突如通知されました。通知から実施までわずか1ヶ月というこれまでにない水準の値上げです。 旭化成建材は高性能断熱材「ネオマフォーム」「ネオマゼウス」への影響として受注制限・納期調整・生産停止を発表しています。 断熱性能は住まいの快適さと省エネ性に直結するため、安易に妥協できない部分であり、施主との仕様確認が一層重要になっています。
ユニットバス・住宅設備の受注停止
TOTOは浴室製品の新規受注を停止し 、システムバス・ユニットバスなどの新規受注を一時停止すると発表しました。対象はトイレユニットを含む全シリーズで、再開時期は未定です。 またLIXILは「現下の情勢は自助努力の範囲を大きく超える」として、今後価格や納期、数量など製品の供給条件を調整する可能性があると発表しています。 水回り設備は工程上の特定タイミングで設置が必要なため、納期が見えないまま工程を組まざるを得ない状況は、現場に大きな負担をもたらしています。
シンナー・ルーフィング・透湿防水シートなど「脇役」材料の枯渇
屋根の防水シートであるルーフィングは2026年5月1日出荷分から約40〜50%の大幅な値上げが通知され、メーカーの受注停止の影響により屋根工事に着手できない現場が増えています。塗料およびシーリング材についても一部メーカーでは受注停止に至っています。 さらに外壁材最大手のニチハから透湿防水シートの供給制限通知があり、外壁工事においても調達困難な状況が広がっています。 こうした「脇役」材料の不足が特定の工程を止め、工事全体の進行に影響するケースが相次いでいます。
これからの家づくりに求められる設計の考え方

必要な資材が必要なタイミングで確保できないという事態は工期の遅れに直結し、複数の調達ルートの確保や代替材の検討など、これまで以上に緻密で慎重な対応がすべての実務者に求められています。 こうした時代だからこそ、設計の段階から「変化に対応できる仕組み」を組み込んでおくことが重要です。
まず大切にしているのは、特定の製品・工法に依存しすぎないことです。断熱材ひとつをとっても生産停止が現実に起きている今、複数のメーカーや仕様を前提に検討しておくことが不可欠です。ユニットバスや給湯器についても、代替品への切り替えを想定した柔軟な設計が現場での対応力を高めます。
次に、建物の性能で設備への依存度を下げることです。エネルギー価格の変動が長期化する中、断熱性や通風計画を丁寧に設計することで設備に頼りきらない住まいを実現できます。これは単なるコスト対策ではなく、外部環境の変化に左右されにくい、長く安心して暮らせる家をつくるという設計の姿勢そのものです。
そして何より大切なのが、施主と「余白」を共有することです。予算やスケジュールにゆとりを持たせ、「計画は変化することがある」という認識を最初から共有しておくこと。日本建設業連合会(日建連)の会長が「必ず影響が出てくる」と公式に警戒感を示すほど、この危機は一企業・一現場の努力では吸収できないレベルに達しています。 だからこそ、施主と設計者が同じ目線で現実を共有しながら進めることが、満足度の高い家づくりへの最善の道だと考えています。
世界情勢の影響を完全に避けることは誰にもできません。しかし、その現実を前提として設計を組み立てることで、変化に強く、長く安心して暮らせる住まいをつくることは十分に可能です。今こそ、設計の本質が問われる時代だと感じています。
