雪国の暮らしとお餅 ― 台所と家族の風景

雪に覆われる冬の季節。外に出るのが億劫になるこの時期、雪国の暮らしは自然と「家の中」で過ごす時間が長くなります。そんな冬の食卓に欠かせない存在がお餅です。焼く音、ふくらむ様子、香ばしい匂い。お餅はただの食べ物ではなく、家族が集まるきっかけであり、住まいの風景そのものをつくってきました。

今回は「お餅」を通して、雪国の暮らしと住まいのあり方について考えてみたいと思います。


お餅を焼く音が、人を集める

お餅を焼き始めると、自然と人が台所や居間に集まってきます。「もう焼けた?」「ひっくり返したほうがいいよ」。そんな何気ないやり取りが生まれるのも、お餅ならではの光景です。

焼き網の上でゆっくりとふくらんでいくお餅。その様子をじっと見つめる子どもたち。醤油と海苔の準備をしながら、「今年のお餅はよく伸びるね」と話す大人たち。お餅を囲む時間は、誰もが自然と台所に引き寄せられる、穏やかな磁場のような場所を生み出します。

雪国では、冬場はストーブやこたつの周りが暮らしの中心になります。そこに台所やダイニングが緩やかにつながっていると、食事の準備をする人と、待つ人との距離が近くなります。完全に仕切られたキッチンよりも、気配が伝わる間取りは、家族の関係をやわらかくつないでくれます。

私たちが住宅を設計する際にも、「人が自然と集まる場所がどこに生まれるか」を大切にしています。それは特別な仕掛けや装置ではなく、動線のつながり方、視線の抜け方、温かさの感じ方といった、目には見えにくい空間の質によって決まるものです。お餅を焼く時間は、その答えを教えてくれる身近なヒントなのかもしれません。

たとえば、台所からリビングへの視線が通る配置にすることで、料理をしている人も孤立せず、会話の輪に加わることができます。また、カウンター越しに手渡しができる高さや距離感は、自然な協働を促します。雪国の長い冬を心地よく過ごすためには、こうした「ちょうどいい距離感」をつくることが、何よりも大切だと感じています。


雪国の台所は、暮らしの中心になる

雪国の住宅では、台所は単なる「作業の場」ではありません。冬の間、家族が長い時間を過ごす場所であり、暮らしの中心となる空間です。

お餅を焼きながら、鍋の準備をし、外の雪の様子を眺める。窓の外には静かに降り積もる雪、室内には湯気の立ち上る温かさ。そんな日常の風景には、広さだけでなく、動線や居場所の工夫が欠かせません。

たとえば、台所とダイニング、居間が見通せる配置にすることで、料理をしている人も家族の気配を感じながら過ごすことができます。冬でも寒さを感じにくい断熱性能は、足元から伝わる冷えを防ぎ、長時間の台所仕事を快適にします。また、作業をしながら会話ができるカウンターやテーブルの高さは、立つ人と座る人の目線を自然につなげてくれます。

これらはすべて、日々の小さな行為を積み重ねて考えられるものです。朝食の準備、昼下がりのお茶、夕食の支度。毎日繰り返される何気ない時間の中で、「ここにいると落ち着く」と感じられる空間をつくるには、実際の生活の動きを丁寧に想像することが必要です。

お餅は特別な料理ではありませんが、だからこそ、台所の使いやすさや居心地の良さが、そのまま暮らしの質として表れてきます。設計において私たちが大切にしているのは、特別な日のための空間ではなく、日常が心地よく流れていく場所をつくることです。

雪国の冬は長く、外の景色は白一色に染まります。その静けさの中で、温かい台所は家族の拠り所となります。お餅を焼く香りが漂う空間、誰かが笑っている声が聞こえる距離感、窓の外の雪景色を眺められる窓辺。そうした小さな心地よさが重なり合うことで、住まいは「ただの箱」ではなく、「帰りたくなる場所」になっていくのだと思います。


正月明けの静かな時間に思い出す、家族の風景

お正月の慌ただしさが少し落ち着き、日常が戻り始める一月。それでも、冷蔵庫や冷凍庫の片隅には、まだお餅が残っているというご家庭も多いのではないでしょうか。

特別な行事ではなく、いつもの朝や、少しゆっくりできる休日に焼くお餅。正月のごちそうとは違い、肩の力が抜けた時間の中で食べるお餅には、どこか穏やかな温もりがあります。

磯辺焼きにして醤油の香りを楽しんだり、きな粉をまぶして素朴な甘さを味わったり、雑煮の残りの出汁で温め直したり。同じお餅でも、食べ方や場面によって、まったく違う表情を見せてくれます。そして、そのどれもが「この家らしい食べ方」として、記憶の中に残っていきます。

「この場所で、こうして食べていたな」。そんな何気ない記憶は、味だけでなく、家の居場所や空気感と結びついて心に残ります。窓辺の小さなテーブルで朝日を浴びながら食べたお餅、こたつに入りながら家族でわいわい囲んだ時間、ひとりで静かに過ごした雪の日の午後。住まいは、そうした日々の積み重ねによって、その人だけの風景になっていきます。

設計の仕事は、完成した瞬間よりも、住み始めてから積み重なる日々を支えることだと、私たちは考えています。正月明けの静かな冬の時間にこそ、住まいの本当の居心地が見えてくるのかもしれません。

華やかさが去った後に残る、ありふれた日常の心地よさ。それは、派手な設えや特別な仕掛けからは生まれません。むしろ、光の入り方、空気の流れ方、家族との適度な距離感、ひとりになれる居場所といった、目立たないけれど確かに感じられる空間の質が、暮らしを支えています。

雪国の冬は、外の世界との境界が曖昧になる季節です。雪に閉ざされた世界だからこそ、家の中の豊かさが際立ちます。お餅を焼く音、家族の笑い声、窓の外の静けさ。それらが重なり合う場所をつくることが、私たち設計者の役割なのだと、あらためて感じています。


お餅という身近な食べ物を通して見えてくる、雪国の暮らしと住まいのかたち。それは、特別な何かではなく、日々の小さな営みの中にこそ宿るものです。これからも、暮らしに寄り添い、記憶に残る住まいをつくっていきたいと思います。

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